暴行、脅迫に関する判例解説②


被害者運転車両を追跡・幅寄せを行った行為が、暴行罪における「暴行」に当たるのか、さらには、被害者が車両から逃走し転落死した場合に、追跡・幅寄せ行為と転落死に因果関係が認められるのかについて判示した判例(東京高判平成16年12月1日)

本判決の意義は大きく分けて二つあります。

一つは、車両追跡行為・幅寄せ行為が、暴行に当たるのか否かについて判断している点です。

もう一つは、追跡・幅寄せ・車両への攻撃により直接相手が死亡したのではなく、車両から逃走し、自ら橋から転落して死亡した場合に、因果関係が認められるのか(被告人に、致死結果の責任を負わせることができるのか)について判断している点です。

事案

車両を運転していたXは、対向していたY車両にカーブで幅寄せされたと感じ、怒りを覚え、直ちにユーターンをして追跡を開始し、①深夜とはいえ、交通量が多く、しかも幅員が狭い幹線道路であるのに、②最高で時速100キロまで加速するなど高速度で走行し、③X車両自ら対向車線に進出するなど危険な方法でY車両と並走し、追い越そうとするなどし、④X車両をY車両に最短約1メートル以下と極めて接近させるいわゆる幅寄せ行為を頻繁に行い、⑤Y車両を強引に追い越してその前に斜めに割り込む進路妨害行為を数回行うなどの行為を行った。

Yは、最終的に、X車両に進路を塞がれ停止し、車両内から逃走し、後ろを振り返りながら疾走して、前方の視認が困難であったこともあり、橋から転落し、死亡した。

Xは、傷害致死罪として起訴されるに至った。Xの弁護人は、「車両には一切接触していないのであるから、傷害の実行行為である暴行に当たらない。また、Yの転落死は、Xの追跡行為と因果関係がないのであるから、傷害致死罪は成立しない。」と主張し、高等裁判所まで争った。

判例(東京高判平成16年12月1日平成16年(う)385号事件)

車両追跡行為・幅寄せ行為が、暴行に当たるのか否かについて

「結果的には幸いY車両が停止して交通事故には至らなかったものの、Yが運転を誤る可能性は極めて高かったといわざるを得ない。少なくとも交通量が多く、幅員の狭いバイパスに入った段階以降は、Y車両をして、X車両ないし他車両や、欄干等路上施設との接触はおろか、橋上からの転落等重大な交通事故を惹起させる可能性が極めて高かったといえる。このことは、Y車両が普通貨物自動車であり、X車両に比してY車両が大きく、Yが職業運転手で運転技量に劣るところはなく、さらに、当時気象条件に問題はなく、幅寄せや進路妨害をした現場の地形が急なカーブ等危険場所ではなかったとしても同様である。そうすると、本件追跡行為(幅寄せ行為等を含む。以下同じ。)は、Yの身体に対する不法な有形力の行使すなわち暴行に当たるということができる。その際に、X車両が実際にYの身体やY車両に接触する必要はなく、前記の接触等の実質的な危険性があれば足りるというべきである。そう解さないと、4輪車同士の場合には、そもそも運転者である被害者の身体への直接の接触などは想定し難い上に、被害車両への接触が必要となると、例えば、追跡行為により被告人車両を被害車両と接触させて、ガードレール等に激突させて被害者を死亡させた場合には傷害致死罪が成立するのに、被害者がとっさのハンドル操作で被告人車両との接触は避けたものの結局ガードレール等に激突して死亡した場合には同罪が成立しないことになり、接触という極めて偶然の出来事の有無により結論が大きく異なることになってしまい、これは、事態の実質から見て、到底妥当とはいえない。」

因果関係について

「Yは、暴行を受けた末に、Y車両内から逃走し、後ろを振り返りながら疾走して、橋上待避所内に入り、折から同所は照明がなく、前方の視認が困難でもあったため、前方の欄干に気づかないまま、欄干下の段差につまずいて欄干を飛び越え、約11.5メートル下のアスファルト舗装された地面に転落し、死亡に至ったものである。
この間、約1分たらずの間の出来事である。当時YがXの行為により極度に畏怖狼狽していたことは、Yが110番通報においてすら、『追われています、お願いします、助けて下さい、本当にやります、すいません、すいません、許して下さい、お願いします』と多数回言いつつも、場所の質問に的確に答えられずに結局効を奏しなかったことからも認められる。Yをこのような状態にしたXによる執ようで危険な追跡と、Yの降車を目的とした車両への攻撃からして、このまま推移すれば、YはXにより運転席から引きずり出されるなどして、Xから強度の暴行を受けることは必至の状況であったといえる。このような状況下で、Yが、Xの暴行から逃れる方法として、何とかXの一瞬の隙をみて逃走することは当然の機転であり、むしろ合理的な行動であるといえるから、本件でのYの逃走は一般的に予測が可能な行動である。X弁護人は、YとしてはY車両を降りてXに謝罪すればことが収まったから、Xの行為が、YをしてY車両を降りて現場である橋路上を疾走することを余儀なくさせたというものでもないというが、Y車両に対する激しい攻撃振りをみても、到底謝罪させるに止まらなかったであろうことは前記のとおりであり、主張自体失当である。
ところで、Yは、その後逃走に当たり、後ろを振り返りながら、視界がないところを約276メートル疾走したもので、このような行為は、一般的には危険性の高い行為で、しかも、客観的にはXはYの素早い行動を見て早々に追跡をあきらめ、何らの逃走妨害行為をしなかったものであるから、ある意味では過剰反応的な行動といえないでもない。
しかしながら、当時のYの立場に立ってみると、ようやくの思いで車両から逃げ出したものの、Xがここまで執ような追跡や攻撃をするからには、Xが軽々しくYへの報復をあきらめるとはにわかに信じられないことであり、Xの追跡行動を現に目にしなかったとしても、現実に追跡される危険が全くないとは確信できなかったのももっともなことである。それゆえ、後方を気にし、たびたび後ろを振り向きながら疾走するという危険な行動をとったこともまことにやむを得ないものである。そして、本件現場のような交通量の多い幹線道路においては、車道では自動車に轢かれる危険が大きいし、明るい場所では人目について、Xになおも追及されると考えたとしても不合理ではない。しかも、これまで攻撃を受けている間中、目撃者もいたであろうに、だれもYの救護に来てくれなかった事情等からして、通行車両の運転手らに助けを求めても甲斐のないことと思ったとしても、これまた無理からぬ話で、Yが、周りの者に助けを求めず、やみくもに疾走したことが不合理な判断であるなどとはいえない。Yは、まず、センターライン上、そして道路右側路側帯を走り、その後待避所内を疾走したものであるが、これは、とっさの判断で、むしろXから身を隠すに最適な暗い場所を選んで逃げたとも考えられ、そうすると、明るい車道から暗い待避所の方に逃走したのが、突飛で不合理な行動であるとはいえない。いずれにしろ、極度に畏怖狼狽していたYが、合理的で的確な判断ができないままに、とっさの判断のもとに方向を定めて逃走したもので、これはひとえにXによる自動車での執ような追跡行為及び被害車両への攻撃という前記暴行があり、引続き予想される、身体への強烈な直接暴行という更なる危難を避けるためになされた行動の一環として、それが著しく不自然であるとか不相当であるとはいえず、突飛なものとはいえないから、一般的にみて、このような行動が予測不可能とはいえない。したがって、Xにとりこのような人間がいることが予測不可能で、Xとは関わりのないY自身の責任であるなどとは到底いえないところである。なお、X弁護人の所論には、Xは本件待避所の存在を知らないから、Yが待避所の方向に逃げることが予想できなかったとする部分があるが、本件待避所は、何ら特異なものではなく、国道4号線バイパスの施設として通常に設置されたものであるから、仮にXがその存在を具体的に認識していないとしても、一般通常人を基準とした予測可能性の判断を左右するものではない。
そうすると、Yが、後ろを振り返りながら疾走し、必死に逃走する過程において、見通しの利かない場所で、段差につまずいてコンクリート製欄干から転落するということは、Yの逃走行為の一環として引続き生起したことであり、前記の具体的な状況の下では予想外の出来事とはいえない。したがって、Yが転落した結果、同所において左後側頭部打撲によるくも膜下出血により死亡したことは、Xの前記暴行と因果関係を有するということができる。」

 

 

弁護士の解説

車両追跡行為・幅寄せ行為が、暴行に当たるのか否かについて

判例は、暴行の意義について、「人の身体に対する不法な攻撃方法の一切」ないし「人の身体に対する不法な有形力の行使」としています。本事案を受けて、裁判所は、車両運転者に対し、他の車両運転者が、車両を追跡・幅寄せするだけでも、「人の身体に対する不法な攻撃方法」に該当することがあることを示しました。身体への直接の接触ではなく、車両の追跡・幅寄せであっても、それを受けた相手は、事故等を恐れ、通常の運転をできない状態になり、物理的にも心理的にも影響を受け、自由を侵害されることからして、妥当な判決であるということができるでしょう。

また、判例は、車両追跡行為・幅寄せ行為を例外なく暴行に該当すると判断しているわけではなく、事案に即して判断するという姿勢を示しています。本件を参考にすると、①追跡・幅寄せ方法(時間、走行距離、速度、車間距離、運転手法、クラクション利用の有無等)②道路の状態(交通量、見通し、幅員、カーブの程度、気象条件等)③被害者の運転スキル等を総合考慮し、危険性の大きい追跡・幅寄せ行為について、暴行該当性を認めています。

警察から取調べを受けている方で、自らの行為が暴行に該当するのか疑問をお持ちの方は、弁護士への相談をお勧めします。

 

因果関係について

判例(大判明治42年4月15日刑録15・433等)は、暴行により傷害結果・傷害致死結果が生じた場合、暴行の故意のみで、傷害罪や傷害致死罪が成立するとしています。
しかしながら、暴行行為と、致死結果との間で、因果関係が必要です。因果関係は、被疑者(被告人)に、結果に対する責任を負わせてよいのかを判断するファクターです。

本件Yが、追跡・幅寄せされ、X車両と衝突し死亡したり、X車両との衝突を避けるためにガードレール等に衝突したりして死亡した場合には、因果関係はそこまで争われることはないでしょう。しかし本件では、Yは車両から脱出し逃走し、Xの支配下を離れた後に、転落死しているため、因果関係が争われました。上記判例は、暴行行為と死亡結果の因果関係を認めました。

上記判例が、因果関係を認めた理由としては、①暴行行為の悪質性、②被害者が心理的に追い込まれていたこと、③車両から脱出して逃走してもXが追跡する可能性が高かったこと、④Xから逃げたいYとしては暗い方向に逃げる合理的理由があること、等が挙げられています。因果関係は、様々な事情を総合考慮して判断されますから、因果関係を争う場合には豊富に証拠を収集し、裁判官を説得しなければなりませんから、刑事専門の弁護士を選任することをお勧めします。

 

 

まとめ

暴行事件、傷害事件においては、暴行該当性や、因果関係の有無が争点となることがあります。それらの争点は、様々な事情を総合考慮して裁判官が判断を下しますから、争うのであれば、早期からあなたに有利な証拠を豊富に収集し、裁判官にそれを説得的に提示する必要があります。

当事務所には、刑事事件チームが設置されていますから、暴行・傷害事件でお困りの方は、まずはお気軽に、当事務所にご連絡ください。

 

 

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